目次

  1. クリニック経営における節税の重要性
  2. 1. 少額減価償却資産の特例活用
  3. 2. 医療機器の特別償却・即時償却
  4. 3. 専従者給与の最適化
  5. 4. 小規模企業共済・経営セーフティ共済の活用
  6. 5. 社会保険診療報酬の特例(概算経費)
  7. 6. 生命保険を活用した節税と退職金準備
  8. 7. 経営セーフティ共済(倒産防止共済)
  9. 8. 自宅兼診療所の経費按分
  10. 9. 福利厚生費の有効活用
  11. 10. 決算期対策と利益調整
  12. 節税対策の注意点とリスク
  13. まとめ:バランスの取れた節税戦略

「税金が高すぎる」「もっと手元にお金を残したい」-これは多くのクリニック経営者に共通する悩みです。実は、適切な節税対策を行うことで、年間数百万円の税金を削減することも可能です。

本記事では、当社が300件以上の医院をサポートしてきた経験から、即効性があり、かつ税務調査でも問題にならない「正しい節税対策」を10個厳選してご紹介します。単なる税金の先送りではなく、キャッシュフローを改善し、経営基盤を強化する実践的な方法をお伝えします。

クリニック経営における節税の重要性

節税対策は単に税金を減らすだけでなく、クリニック経営の安定化と成長に直結する重要な経営戦略です。

節税がもたらす3つの効果

キャッシュフローの改善

手元資金が増え、設備投資や人材投資が可能に

経営リスクの軽減

内部留保の充実により、不測の事態に対応可能

成長投資の原資確保

最新医療機器の導入や分院展開の資金確保

医院経営者の税負担の実態

個人診療所の場合、所得税・住民税・事業税を合わせると、最高税率は約60%に達します。

課税所得 所得税率 住民税 事業税 実効税率
1,800万円超 40% 10% 5% 約52%
4,000万円超 45% 10% 5% 約57%

節税対策1:少額減価償却資産の特例活用

概要

30万円未満の資産は、購入年度に全額を経費計上できる特例です。通常は耐用年数に応じて減価償却しますが、この特例により即時の節税効果が得られます。

メリット

  • 購入年度に全額経費化(即効性の高い節税)
  • 年間300万円まで適用可能
  • 青色申告者なら誰でも利用可能

具体的な活用例

購入物 金額 通常の償却 特例適用 初年度節税額
診察用チェア 25万円 5年償却(5万円) 全額償却(25万円) 約10万円
パソコン 20万円 4年償却(5万円) 全額償却(20万円) 約7.5万円
空気清浄機 15万円 6年償却(2.5万円) 全額償却(15万円) 約5万円

実践のポイント

  • 決算期末に利益が出そうな場合は、必要な備品を前倒しで購入
  • 1組30万円以上の物は、分割購入を検討(例:待合室の椅子)
  • レンタルより購入の方が節税効果が高い場合も

節税対策2:医療機器の特別償却・即時償却

概要

高額医療機器については、通常の減価償却に加えて特別償却が可能です。また、一定の要件を満たせば即時償却(100%償却)も選択できます。

利用可能な制度

中小企業投資促進税制
  • 160万円以上の医療機器
  • 30%の特別償却または7%の税額控除
  • 資本金3,000万円以下の医療法人
医療機器特別償却制度
  • 高度医療機器が対象
  • 12%の特別償却
  • 取得価額500万円以上

節税シミュレーション

MRI装置(1億円)導入の場合

償却方法 初年度償却額 節税効果
通常償却(6年) 1,667万円 約750万円
30%特別償却 4,667万円 約2,100万円
即時償却 1億円 約4,500万円

活用時の注意点

特別償却は「税金の繰り延べ」効果です。将来の償却額が減るため、長期的な資金計画が重要です。

節税対策3:専従者給与の最適化

概要

配偶者や親族を青色事業専従者として雇用し、適正な給与を支払うことで、所得分散による節税が可能です。

青色事業専従者の要件

  • 青色申告者と生計を一にする配偶者・親族
  • 年齢15歳以上
  • 6ヶ月以上専従
  • 事前に「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出

節税効果の実例

ケース:院長所得3,000万円の場合

専従者給与なし
  • 院長所得:3,000万円
  • 所得税等:約1,200万円
  • 手取り:約1,800万円
配偶者に年600万円支給
  • 院長所得:2,400万円
  • 院長の税金:約850万円
  • 配偶者の税金:約80万円
  • 世帯手取り:約2,070万円

年間270万円の節税!

最適な専従者給与の目安

業務内容 適正給与の目安 備考
受付・事務全般 月30〜50万円 フルタイム勤務
経理・総務責任者 月40〜60万円 専門性を考慮
看護業務 月35〜55万円 資格保有者

節税対策4:小規模企業共済・iDeCoの活用

概要

掛金が全額所得控除となる制度を活用し、老後資金を準備しながら節税を実現します。

制度比較

項目 小規模企業共済 iDeCo
掛金上限 月額7万円
(年84万円)
月額6.8万円
(年81.6万円)
所得控除 全額控除 全額控除
節税効果
(税率45%の場合)
年間約38万円 年間約37万円
受取時の税制 退職所得控除 退職所得控除
または公的年金控除

長期シミュレーション

30年間積み立てた場合(小規模企業共済)

  • 掛金総額:2,520万円(月7万円×30年)
  • 節税総額:約1,134万円(税率45%の場合)
  • 実質負担:約1,386万円
  • 受取予想額:約3,000万円(運用益含む)

実質負担の2倍以上の老後資金を確保!

活用のポイント

  • 両制度併用で年間165.6万円の所得控除
  • 掛金は1,000円単位で増減可能
  • 前納制度を使えば来年分も今年の控除に
  • 廃業時は退職金として有利に受取可能

節税対策5:社会保険診療報酬の特例(概算経費)

概要

社会保険診療報酬が5,000万円以下の場合、実際の経費に代えて概算経費を使用できる特例です。

概算経費率

社会保険診療報酬 概算経費率 控除額
2,500万円以下 72% -
2,500万円超〜3,000万円 70% 50万円
3,000万円超〜4,000万円 62% 290万円
4,000万円超〜5,000万円 57% 490万円

メリット・デメリット比較

メリット

  • 実際の経費率が低い場合に有利
  • 経費の記帳・保存が簡素化
  • 青色申告特別控除との併用可

デメリット

  • 自由診療収入は対象外
  • 実際の経費率が高い場合は不利
  • 医療法人は適用不可

節税効果の計算例

社会保険診療報酬3,000万円、実際の経費率50%の場合

  • 実額経費:1,500万円
  • 概算経費:2,150万円(70%+50万円)
  • 差額:650万円
  • 節税額:約260万円(税率40%の場合)

節税対策6:生命保険を活用した節税と退職金準備

概要

法人契約の生命保険は、保険料の一部を経費計上しながら、退職金の原資を準備できる優れた節税ツールです。

主な保険商品と経費計上割合

保険種類 経費計上割合 特徴
逓増定期保険 1/2〜全額 高額保障・解約返戻金あり
長期平準定期保険 1/2(前半期間) 長期の退職金準備に最適
養老保険 1/2(福利厚生) 満期金あり・全員加入要

活用事例

医療法人での退職金準備

  • 契約者:医療法人
  • 被保険者:理事長(45歳)
  • 年間保険料:500万円
  • 保険期間:20年
20年後の効果
  • 支払保険料総額:1億円
  • 損金算入総額:5,000万円
  • 節税効果:約1,500万円
  • 解約返戻金:約9,000万円
  • 実質負担:約8,500万円で9,000万円の退職金原資

注意点

  • 2019年の税制改正で損金算入ルールが変更
  • 最高解約返戻率により損金算入割合が決定
  • 名義変更や契約者貸付は税務リスクあり

節税対策7:経営セーフティ共済(倒産防止共済)

概要

取引先の倒産リスクに備えながら、掛金を全額損金計上できる国の共済制度です。

制度の特徴

掛金

月額5,000円〜20万円
年間最大240万円

税制優遇

掛金全額が損金算入
前納で1年分を一括損金化

解約時

40ヶ月以上で100%返戻
任意解約可能

節税活用例

決算対策での活用

3月決算の医療法人が、2月に利益が1,000万円出る見込みの場合

  1. 2月に加入申込み
  2. 月額20万円×12ヶ月分=240万円を前納
  3. 240万円を当期の損金に算入
  4. 法人税等約72万円の節税

※40ヶ月後に解約すれば240万円が戻る(実質的な税金の繰り延べ)

クリニック経営での活用メリット

  • 患者数の季節変動による利益調整に活用
  • 医療機器購入資金の一時的なプールとして
  • 800万円まで積立可能(内部留保の代替)
  • 取引先歯科技工所の倒産時は無利子融資も

節税対策8:自宅兼診療所の経費按分

概要

自宅の一部を診療所として使用している場合、家賃・光熱費・固定資産税などを合理的に按分して経費計上できます。

按分可能な経費項目

経費項目 按分基準 一般的な按分率
家賃・住宅ローン利息 床面積比 30〜50%
固定資産税・都市計画税 床面積比 30〜50%
水道光熱費 使用実態 20〜40%
通信費(電話・インターネット) 使用頻度 50〜80%
火災保険料 床面積比 30〜50%

按分計算の実例

床面積200㎡の自宅兼診療所の場合

  • 診療所部分:80㎡(40%)
  • 自宅部分:120㎡(60%)
年間支出 総額 経費計上額(40%)
住宅ローン利息 120万円 48万円
固定資産税 30万円 12万円
水道光熱費 36万円 14.4万円
合計 186万円 74.4万円

年間約30万円の節税効果(税率40%の場合)

税務調査対策

  • 間取り図を作成し、診療所部分を明確に
  • 診療所の看板・入口の写真を保管
  • 光熱費は使用実態の記録を残す
  • 按分率の合理的な根拠を文書化

節税対策9:福利厚生費の有効活用

概要

従業員の福利厚生を充実させることで、経費計上しながら職員満足度を向上させ、人材確保にもつながる一石三鳥の節税対策です。

経費計上可能な福利厚生

健康管理
  • 人間ドック費用(年1回)
  • インフルエンザ予防接種
  • ストレスチェック
慶弔・レクリエーション
  • 慶弔見舞金
  • 忘年会・歓送迎会
  • 職員旅行(年1回)
教育・研修
  • 資格取得支援
  • 学会参加費
  • 書籍購入費
その他
  • 制服・白衣支給
  • 食事補助
  • 通勤手当(非課税枠)

節税効果と投資対効果

従業員10名のクリニックでの年間福利厚生費

項目 単価 年間費用
人間ドック 5万円×10名 50万円
職員旅行 10万円×10名 100万円
忘年会等 - 30万円
研修費 3万円×10名 30万円
合計 - 210万円

節税効果:約84万円(税率40%)

副次効果:離職率低下、採用コスト削減、生産性向上

注意事項

  • 全従業員を対象とすること(差別的取扱いは否認リスク)
  • 社会通念上相当な金額であること
  • 現金支給は原則給与扱い(現物給付が基本)

節税対策10:決算期対策と利益調整

概要

決算期前の適切な利益調整により、無駄な税金を支払わず、計画的な節税を実現します。

決算3ヶ月前からの対策

3ヶ月前
利益予測と対策立案
  • 月次試算表での利益確認
  • 必要な節税額の算出
  • 対策の優先順位決定
2ヶ月前
設備投資・修繕の実施
  • 医療機器の更新・購入
  • 診療所の修繕・改装
  • 少額資産の購入
1ヶ月前
経費の前倒し計上
  • 消耗品のまとめ買い
  • 保険料の年払い
  • 広告宣伝費の先行投資

効果的な決算対策メニュー

対策 実施時期 節税効果 注意点
決算賞与 決算日まで 支給基準の明確化
修繕費計上 決算日まで 中〜高 資本的支出との区分
在庫評価見直し 決算日 継続性の原則
貸倒引当金 決算日 低〜中 個別評価の根拠

決算直前チェックリスト

節税対策の注意点とリスク

過度な節税のリスク

資金繰りの悪化

節税のための支出で手元資金が枯渇し、運転資金不足に陥るリスク

税務調査リスク

不自然な経費計上や租税回避行為は、税務調査で否認される可能性

金融機関評価低下

利益を過度に圧縮すると、融資審査で不利になる場合も

健全な節税の原則

  1. 事業目的との整合性:節税だけが目的の支出は避ける
  2. 適正な利益の確保:内部留保とのバランスを考慮
  3. 継続性の維持:一時的な節税より長期的視点を重視
  4. 専門家の活用:税理士等の専門家に相談して実施

まとめ:バランスの取れた節税戦略

効果的な節税対策は、単に税金を減らすだけでなく、クリニック経営の基盤強化につながります。本記事で紹介した10の対策を、自院の状況に応じて組み合わせることで、年間数百万円の節税も可能です。

節税対策の実施優先度

優先度 対策 理由
小規模企業共済
少額減価償却資産
リスクが低く確実な効果
専従者給与
福利厚生費
副次効果も期待できる
生命保険
決算対策
状況により検討

今すぐ始められる3つのアクション

  1. 現状分析:今年の所得予測と実効税率の確認
  2. 制度加入:小規模企業共済・iDeCoへの加入手続き
  3. 専門家相談:税理士による節税診断の実施

節税対策は「知っているか知らないか」で大きな差が生まれます。しかし、適切な実行には専門知識と経験が必要です。当社では、各クリニックの状況に応じた最適な節税プランをご提案し、実行までサポートしています。

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執筆者情報

辻 光明(つじ みつあき)

税理士法人 辻総合会計 代表社員
医業経営コンサルタント
クリニックの節税対策を専門とし、年間100件以上の税務相談に対応。