目次

  1. 2024年医療法改正の概要と背景
  2. 診療所に影響する5つの重要改正ポイント
  3. 医師の働き方改革への対応
  4. 医療DX推進に関する義務化
  5. かかりつけ医機能の強化
  6. コンプライアンス体制の強化
  7. 診療所が取るべき具体的な対応策
  8. 対応スケジュールと優先順位
  9. まとめ:変化をチャンスに変える経営戦略

2024年4月に施行された医療法改正は、診療所の運営に大きな影響を与えています。働き方改革、医療DXの推進、かかりつけ医機能の強化など、多岐にわたる改正内容への対応が求められています。

本記事では、診療所経営者が押さえるべき改正ポイントと、具体的な対応策について、当社がサポートしてきた事例を交えながら詳しく解説します。「規制強化」と捉えるのではなく、「経営改善のチャンス」として活用する方法もご提案します。

1. 2024年医療法改正の概要と背景

今回の医療法改正は、「持続可能な医療提供体制の構築」を目的とし、以下の社会的背景を踏まえて実施されました。

改正の背景となる社会的課題

  • 医師の長時間労働:過労死ラインを超える勤務実態
  • 医療の地域格差:都市部への医師偏在の深刻化
  • 高齢化の進展:2025年問題への対応急務
  • デジタル化の遅れ:他産業と比較した生産性の低さ
  • 感染症対応:COVID-19で露呈した医療体制の脆弱性

これらの課題解決に向けて、診療所にも様々な対応が求められることになりました。特に、これまで「努力義務」だった項目が「義務化」されたものが多く、早急な対応が必要です。

2. 診療所に影響する5つの重要改正ポイント

数多くの改正項目の中から、診療所経営に直接影響する重要な5つのポイントを整理しました。

1. 医師の働き方改革

時間外労働の上限規制導入、勤務間インターバル制度の義務化

2. 医療DXの推進

オンライン資格確認の義務化、電子処方箋対応の推進

3. かかりつけ医機能

機能報告制度の創設、患者への情報提供義務

4. 医療安全管理

インシデント報告体制の強化、研修受講の義務化

5. 情報公開

診療実績の公表拡大、患者満足度調査の実施

3. 医師の働き方改革への対応

2024年4月から医師にも時間外労働の上限規制が適用されました。診療所においても、以下の対応が必要です。

3-1. 時間外労働の上限規制

区分 年間上限時間 月間上限時間 対象となる診療所
A水準(一般) 960時間 100時間未満 すべての診療所
B水準(地域医療) 1,860時間 100時間未満 地域医療確保の指定を受けた診療所

3-2. 必要な対応事項

労務管理体制の整備

  • 勤怠管理システムの導入(タイムカード、ICカード等)
  • 36協定の締結と届出
  • 変形労働時間制の検討と導入
  • 宿日直許可の取得(該当する場合)

3-3. 実務的な工夫と対策

当社がサポートした診療所では、以下のような工夫により、医療の質を維持しながら労働時間を削減しています。

成功事例:内科クリニックA院

  • タスクシフト:看護師への問診業務移管で医師の診察時間を20%短縮
  • 予約システム改善:時間帯予約制導入で待ち時間と残業を削減
  • 事務作業効率化:音声入力システム導入でカルテ記載時間を30%短縮
  • 結果:月平均残業時間を80時間から45時間に削減

4. 医療DX推進に関する義務化

デジタル化の推進は、単なるIT化ではなく、業務効率化と医療の質向上を同時に実現する重要な取り組みです。

4-1. オンライン資格確認の義務化

2023年4月から原則義務化

すべての保険医療機関でオンライン資格確認システムの導入が義務付けられました。

  • マイナンバーカードの健康保険証利用に対応
  • 資格過誤によるレセプト返戻の削減
  • 薬剤情報・特定健診情報の閲覧が可能

4-2. 電子処方箋への対応

2025年3月末までに、電子処方箋システムへの対応が推奨されています。早期導入により、以下のメリットが得られます。

電子処方箋導入のメリット

重複投薬の防止

他医療機関の処方情報を確認可能

業務効率化

処方箋の印刷・管理が不要

患者利便性向上

どの薬局でも受け取り可能

診療報酬加算

電子的保健医療情報活用加算の算定

4-3. その他のDX推進項目

  • 予約システムのオンライン化:24時間予約受付で患者満足度向上
  • 問診票のデジタル化:待ち時間短縮と情報精度向上
  • オンライン診療の活用:通院困難患者への対応強化
  • クラウド型電子カルテ:災害時のBCP対策にも有効

5. かかりつけ医機能の強化

今回の改正では、「かかりつけ医機能」が法律上明確に定義され、その機能を担う医療機関の役割が強化されました。

5-1. かかりつけ医機能の定義

法律上の定義

「身近な地域における日常的な診療、疾病の予防のための措置その他の医療の提供を行う機能」

具体的な機能

  1. 継続的な診療・健康管理
  2. 日常的によくある疾患への幅広い対応
  3. 医療機関間の連携・紹介
  4. 時間外対応(夜間・休日の相談等)
  5. 在宅医療の提供または連携

5-2. かかりつけ医機能報告制度

2025年4月から、以下の項目について都道府県への報告が義務化されます。

報告項目 内容 報告頻度
診療体制 診療時間、医師数、対応可能な疾患等 年1回
連携状況 連携医療機関、紹介実績等 年1回
時間外対応 夜間・休日の対応体制 変更時
在宅医療 訪問診療の実施状況 年1回

5-3. 患者への情報提供義務

かかりつけ医機能を有する診療所は、患者に対して以下の情報を書面で提供することが義務付けられました。

提供すべき情報

  • 診療時間・休診日
  • 時間外の連絡方法
  • 連携医療機関のリスト
  • 在宅医療の対応可否
  • 健康相談の実施方法

6. コンプライアンス体制の強化

医療安全と個人情報保護に関する規制が強化され、診療所においても体制整備が必要です。

6-1. 医療安全管理体制

義務化された項目

  • 医療安全管理指針の策定:年1回以上の見直し必須
  • インシデント報告制度:ヒヤリハット事例の収集・分析
  • 職員研修の実施:年2回以上の医療安全研修
  • 医薬品安全管理:責任者の設置と手順書作成

6-2. 個人情報保護の強化

2022年の個人情報保護法改正を受け、医療機関における対応も強化されています。

必要な対策

  1. 安全管理措置の実施
    • 組織的措置:規程整備、責任者設置
    • 物理的措置:施錠管理、入退室管理
    • 技術的措置:アクセス制御、暗号化
    • 人的措置:職員教育、秘密保持契約
  2. 漏えい時の報告義務
    • 個人情報保護委員会への報告(72時間以内)
    • 本人への通知

7. 診療所が取るべき具体的な対応策

ここまで説明した改正内容に対し、診療所が取るべき具体的な対応策を優先度別に整理しました。

7-1. 最優先で対応すべき事項(罰則・指導対象)

  1. オンライン資格確認システムの導入
    • 未導入の場合は早急に申請
    • 補助金の活用(最大190.3万円)
  2. 労働時間管理体制の整備
    • 勤怠管理システムの導入
    • 36協定の締結・届出
  3. 医療安全管理指針の策定
    • ひな形を活用した作成
    • 職員への周知徹底

7-2. 早期に対応すべき事項(経営改善につながる)

  1. 電子処方箋システムの導入準備
    • ベンダーとの早期相談
    • 職員研修の計画
  2. かかりつけ医機能の整備
    • 時間外対応体制の構築
    • 連携医療機関との協定締結
  3. 業務効率化の推進
    • タスクシフトの検討
    • ICTツールの導入

7-3. 計画的に進めるべき事項

  1. 診療データの分析体制構築
  2. 患者満足度調査の実施
  3. BCPの策定・見直し
  4. 職員のキャリア開発支援

8. 対応スケジュールと優先順位

限られた経営資源で効率的に対応するため、以下のスケジュールで進めることをお勧めします。

2024年度 対応スケジュール

2024年4月〜6月

第1四半期:緊急対応期

  • 労働時間管理体制の整備
  • 医療安全管理指針の策定
  • オンライン資格確認の運用開始
2024年7月〜9月

第2四半期:基盤整備期

  • 電子処方箋システムの選定
  • かかりつけ医機能の体制構築
  • 職員研修の実施
2024年10月〜12月

第3四半期:システム導入期

  • 電子処方箋の試験運用
  • 業務フローの見直し
  • 連携医療機関との協定締結
2025年1月〜3月

第4四半期:運用定着期

  • 各種報告制度への対応準備
  • PDCAサイクルの確立
  • 次年度計画の策定

9. まとめ:変化をチャンスに変える経営戦略

2024年医療法改正は、確かに診療所に多くの対応を求めていますが、これを「規制強化」と捉えるのではなく、「経営改善のチャンス」として活用することが重要です。

改正を経営改善につなげる3つの視点

1. 業務効率化の推進

DX推進により、職員の業務負担を軽減し、患者サービスの向上と収益改善を同時に実現

2. 差別化戦略の構築

かかりつけ医機能の充実により、地域での存在感を高め、患者からの信頼を獲得

3. 職員満足度の向上

働き方改革により、優秀な人材の確保・定着を実現し、医療の質を向上

成功のための5つのポイント

  1. トップの強いリーダーシップ:院長自らが改革の必要性を理解し、推進する
  2. 職員の巻き込み:全職員で課題を共有し、改善アイデアを出し合う
  3. 段階的な導入:優先順位を明確にし、無理のないペースで進める
  4. 外部専門家の活用:医療経営コンサルタントなどの知見を活用
  5. PDCAサイクルの確立:定期的な見直しと改善を継続

医療法改正への対応は、単なるコンプライアンスの問題ではありません。これを機に、診療所の経営体質を強化し、地域に必要とされる医療機関として発展していくことが重要です。

当社では、各診療所の状況に応じた最適な対応プランの策定から、実行支援まで、トータルでサポートしています。規制対応を経営改善につなげたい先生は、ぜひご相談ください。

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執筆者情報

辻 光明(つじ みつあき)

税理士法人 辻総合会計 代表社員
医業経営コンサルタント
医療法改正に関するセミナー講師として、全国で年間50回以上登壇。